紙には、西洋紙、和紙、唐紙、画用紙、包装紙、障子紙など、製造方法や使途によっていろいろな呼称があります。また、一般に和紙と呼ばれる紙にも、和紙風とか機械漉き和紙、手漉き和紙などいろいろな種類が流通しています。PIARASではそれらの中で「手漉き和紙」に特化し、その認知を広げる活動をしています。
「手漉き和紙」はその言葉の通り、制作過程のほとんどの部分に人の手が関わってできています。そのため紙という素材商品でありながらも、手作りゆえの風合いが一枚一枚に表れているのでしょう。この点に大きな魅力を持つのが「手漉き和紙」なのです。また一方で生産地取材を通して思うことは、この土地だからこそ作られ続けてきた、土地柄・歴史等の要素が大いに関係しているという点です。
★市民団体との連携で新たな手漉き和紙が誕生!
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【コラム】
伝統文化(工芸品)の継承について、教育の視点で考える
(教育公論社「週刊教育資料」No.1656, 2022年5月2・9日 木南寄稿転載)
私達の祖先は、生活圏にある自然の恵みを利用して様々なものを作ってきた。その中でも使い勝手の良い、暮らしに必要と思われていたものが、口伝、見真似などによって次世代に遺されている。
さらに、審美眼を兼ね備えた器用な手先を持つ者によって、磨かれ洗練された物が作られた。これらは、伝統的工芸品産業の振興に関する法律に基づいて「伝統的工芸品」と呼ばれてその存在を社会が守っている。
私は、特定非営利活動法人で手漉き和紙を普及する活動を行っており、何世代も継承され作られてきた様々な物を見ている。漆器、和蝋燭、油、灯り、襖。手漉き和紙は、工芸品ではあるものの、それ自体が最終形ではなく、材料になったり道具になったりして使われるので、和紙を追いかけるといろんなものに触れることになるのだ。
例えば、英語でJapanと呼ばれる漆器は、素地に塗る前に漆液の不純物を取り去るのだが、漆濾しには和紙が使われる。伝統的な和蝋燭は芯に和紙を使っている。このように日本のものづくりは、相互に関係し合って作られてきた。そして、原材料には、漆、櫨、楮、三椏、雁皮、麻、桑、竹、桜など植物が使われている。
伝統工芸品の問題は、大きく3つある。
1、国産原材料不足。日本の伝統工芸品の材料がオール外国産も珍しいことではない。市場では堂々と伝統という言葉を用いて売られている。
2、後継者不足。多様な理由により先祖の技術を繋いでいく者がいない。例えば、和紙作る過程で使われる、用具や金具などにも伝統の技術が継承されており、手漉き和紙職人だけでなく、それら一つ一つの継承者も含めて不足している。そのどこが欠けても伝統的な和紙は作れない。
3、人手不足。工芸品の原材料は自然相手なので農作業と同じ。地域の共同体が形成され、お互い様と言って手伝い合える関係性が作られているかも重要なポイント。
2000年にも及ぶ天皇家の歴史や、100年及び200年以上続く老舗が世界で一番多いと言われる日本。長く続く理由は、配慮、礼儀作法、道徳観、忍耐力、想像力、五感で感じて身体で覚える、など、教育から得られたものが大きいと思っている。
課題となっている3つの不足は、職人の責任だけではなく、社会の問題とは切り離すことが出来ない。SDGs達成に向けて、人間(文化)を取り巻く社会を持続可能なものに改善していくことが遠回りに見える近道であると思う。
【コラム】
出来上がったものは作った人そのもの、五感を使う経験が役立つ
(教育公論社「週刊教育資料」No.1665, 2022年7月18日 木南寄稿転載)
五感を使う経験のストックを増やすために私達が出来ることは、経験する場や機会を作ることだと考えています。五感を使う経験を伴う伝統工芸品は、一般家庭では大人が嗜むものとされ、子どもの手には届かないところにあったりするものです。なまじ伝統という難しい言葉が付けられているために、敷居が高くなりがちで子どもの身近には存在していません。
手漉き和紙も同様です。伝統的な方法で作った手漉き和紙を使う機会は、大人でもなかなか持てません。そもそも、どこに売っているのかさえ分からないのではないでしょうか。大人がそうなら子どもたちが手漉き和紙を触ったり感じたりすることは、困難です。
そこで私達は、他の作品制作でちぎり落した端和紙を集め、それをのりで貼るだけで簡単に作品が出来るワークショップを行うことにしました。
その中のひとつ、「PIARASベア」(熊の人形)は、裁ち落としの端和紙と紙粉をのりで固めながら熊の形にしたものです。リメイク・リユース・リサイクルの3Rが揃う環境に配慮した工程を踏む伝統工芸品の一つです。制作は、岩手県奥州市の工房で行っています。
このワークショップの良いところを2点、ご説明しましょう。
1つは、「誰でも作れる」ことです。3歳くらいのお子様からご高齢の方まで、老若男女問わず楽しんで取り組むことができます。大人と子どもが同じテーブルに向かい合い、手を動かして物を作る時間は、世代を超えた交流にも役立っています。
2つ目は、「制作のゴールを作らない」ことです。例えば、目の前にさまざまな色の小さな端和紙を山にして置くと、子どもたちは、目をキラキラさせて自分の好きな色の端和紙を選び出していきます。私はこれを〝宝探し〟と呼んでいます。
和紙の種類によっては触った感じも異なります。たくさんの色に触れ、使う色を決めていく。自分が選んだものや使い方には、誰の意見も及ばせない。一定のゴールはなく、出来上がったものは作った人そのものです。だからこそ、どの作品もオリジナルの輝きに満ちたて生き生きとしています。
達成感が伴う経験で得た自信や感覚は、子どもたちの心に良い記憶としてストックされ、後に役立つ機会を生じさせていくことでしょう。このようなゴールを作らない自由なものづくりの時間を、学校教育の現場でも取り入れてみてはいかがでしょうか。